2類相当から5類へ。新型コロナが特別な感染症ではなくなります。
日本で新型コロナウイルス感染症が確認されてから3年余りが経過しました。 2023年5月8日、新型コロナウイルス感染症(以降「新型コロナ」という)が感染症法上の「2類相当」から「5類」に移行され、5月8日を境に新型コロナは特別な感染症ではなくなりました。 5類への移行に伴い、新型コロナの基本的対処方針や政府の対策本部が廃止されました。一足先に2023年3月よりマスクの着用が個人の判断となっていますが、その他の新型コロナの基本的感染対策(換気、手洗い、3密回避など)や企業の感染対策(入場時の検温、消毒やパーテーションの設置など)についても、国が一律に基準を求めることはなくなり、個人や企業の自主的な判断に委ねられます。 感染症法上の5類への移行について、2回に分けて解説します。 1回目のこの記事では、5月8日以降の新型コロナの取扱いと、日常生活を過ごすうえでの変更点などについて記載しています。 5月8日以降の新型コロナの取扱い 日本では、感染症は「感染症法(正式名称:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)」により、感染症の症状の重さや感染力などに応じて5つの類型に分類されています。感染症の予防や対策、規制の範囲、医療費の公費負担などが定められています。 これまで新型コロナウイルス感染症は、発生当初から不明な点も多く、重症化リスクや感染力が高い「2類相当」として行動制限や就労制限、入院勧告などの規制がされてきました。 その後、変異株のひとつであるオミクロン株が主流になって以降、発生当初と比較して重症化率や死亡率が低下していることを受け、新型コロナの感染症法上の位置付けに見直しが行われました。 その結果、2023年5月8日以降、季節性インフルエンザと同じ分類の「5類」への移行が決定したということです。
感染症法の5類に移行したことで変更されること 5月8日以降、感染症法上の5類に移行された後の生活上の変更点をお伝えします。 1 行動制限がなくなる 2023年5月8日まで: 感染者は、原則7日間の外出自粛等の行動制限や就業制限が求められていました。 2023年5月8日以降: 隔離措置が終了し、行動制限等がなくなります。 ただし他の感染症と同様、感染の広がりを抑えるため、発熱などの症状がある場合は外出を控え、自宅で療養することが望ましいとされています。 外出を控えることが推奨される期間等については以下のように示されています。
(出典)厚生労働省『新型コロナウイルス 療養に関するQ&A』
季節性インフルエンザと同じく、子どもは法令等により出席停止期間が定められていますが、大人の場合は5類へ移行後、仕事の出勤停止期間を定めるような法律はありません。
2 法律に基づく「濃厚接触者」がなくなる
2023年5月8日まで:
保健所は、新型コロナ感染者と近距離または長時間接触し、感染の可能性が相対的に高くなっている方を「濃厚接触者」として特定し、5日間の外出自粛を求めていました。
2023年5月8日以降:
法律に基づく「濃厚接触者」がなくなるため、同居している家族が新型コロナに感染して長時間接触している場合でも「濃厚接触者」として特定されることはありません。外出自粛も求められません。
3 発生者届、陽性者登録、健康観察等がなくなる
2023年5月8日まで:
発生届や陽性者登録によって新型コロナの感染者の把握を行い、健康観察や入院勧告等の措置を行ってきました。
2023年5月8日以降:
発生届や陽性者登録がなくなり、健康観察等がなくなるため、自身で体調管理を行うことになります。
4 幅広い医療機関による対応へ移行
2023年5月8日まで:
感染拡大により一部の医療機関に患者が集中することを防ぎ、確実に受診できるよう、各自治体が発熱患者の診療や検査が可能な医療機関を指定し公表をしていました。かかりつけ医を持たない方でも、公表状況を確認することで地域の医療機関を受診できました。
2023年5月8日以降:
設備整備が間に合っておらず、新型コロナの感染リスクを理由に診療を行わない医療機関もありましたが、5類へ移行後は、発熱など新型コロナに感染していることのみを理由とする診療の拒否が「正当な事由」に該当しなくなります。
新型コロナに対応する医療機関が十分に確保できるように、国の支援が行われます。
5 医療費の自己負担が発生する
2023年5月8日まで:
外来・入院でかかる医療費の自己負担分や検査費用は、全額公費負担とされてきました。
2023年5月8日以降:
医療費は通常の疾病と同じく健康保険が適用されて、3割(1割)を自己負担します。
急激な医療費負担の増加を避けるため、9月末まで新型コロナの治療薬は無料、入院患者の医療費には補助が受けられます。10月以降の医療費補助は感染状況をもとに検討されます。
6 ワクチン接種は引き続き自己負担なく接種できる
「予防接種法」により、感染病の発生や流行予防のためにワクチン接種対象となる疾病などが定められています。
これまでと同様、新型コロナの予防接種は日本で初回接種(1回目、2回目)が完了しているすべての方を対象に、年1回自己負担なしで追加接種を受けられます。2023年については9月を目途に接種が開始される予定です。
また、高齢者等重症化リスクの高い方(65歳以上の高齢者や、基礎疾患をお持ちの方など)は年2回自己負担なしで接種が受けられ、2023年については5月8日より追加接種が始まっています。
参考|厚生労働省『〔追加接種〕令和5年春開始接種についてのお知らせ』
5類へ移行後の企業対応で検討すべきこと
5類へ移行後は、季節性インフルエンザと同じ取扱いになります。季節性インフルエンザは毎年冬季に流行します。
一方、新型コロナの感染は、特性や変異の影響など不確定要素が多く予測が困難な状況です。
5類へ移行後も、企業内の感染予防や新型コロナによる欠勤者対応など今のうちに企業方針を定めておくとよいでしょう。
1 5類へ移行後の感染対策についての企業方針の決定
今まで国が感染対策として一律求めてきたことが、5類へ移行後、個人や企業の自主的な判断に委ねられます。今までの感染対策は引き続き有効であるとしつつ、対策の効果、維持経費など実施の手間やコストを踏まえ、実施の要否を判断することになります。
【企業の感染対策 例】
・マスクの着用、咳エチケット
・手洗い等の手指衛生
・出勤時の検温等の体調管理
・入口での消毒液の設置
・換気、3密回避
・アクリル板などパーテーションの設置
・適度な運動・食事などの生活習慣の提案 など
マスクの着用については、着用は個人の判断に委ねるとしつつも、マスク着用を従業員に推奨することまでは制限されていません。
また、6月は気温が上昇し熱中症にかかりやすい季節です。マスクを着けると皮膚からの熱が逃げにくくなったり、気づかないうちに脱水になるなど、体温調整が難しくなります。マスク着用は室内であっても熱中症リスクを高めるため、その点も考慮して従業員へマスク着用についてお伝えください。
【マスク着用を推奨する場面 例】
・訪問先でマスク着用を求められたとき(訪問先が医療機関や高齢者施設 など)
・重症化リスクの高い方と面談するとき(基礎疾患を持つ者、高齢者、妊婦 など)
・通勤時など、混雑した電車やバスに乗車するとき など
2 本人が新型コロナに感染したときの欠勤者対応
新型コロナによる欠勤連絡を受ける度に異なる対応になったり、対応の遅れで業務への支障が出ないよう、以下を参考にしてあらかじめ欠勤者対応を決定してください。季節性インフルエンザと同様の取扱いとして、検討されることをおすすめします。
【新型コロナによる欠勤者対応で決めておきたい項目】
・出勤停止期間
・従業員やその家族が新型コロナに感染したときの企業への申告方法
・有給休暇の当日・事後取得の可否
・発熱した従業員への新型コロナ検査の命令基準
・受診命令した時の賃金支払いや受診料の負担
・休業時の連絡方法
・業務の引継ぎ方法 など
3 家族が新型コロナに感染したときの対応
本人ではなく同居している家族が新型コロナに感染するケースがあります。
5類へ移行後は「濃厚接触者」に特定されることはなくなりますが、感染の可能性はあります。対応例については以下のとおりです。こちらも季節性インフルエンザと同様の取扱いとして検討されることをおすすめします。
【対応例】
・一定期間、休業をさせる(業務命令の休業になるため休業手当の支払が必要)
・テレワークが対応可能か検討する
・特別休暇を取得させる
・本人の希望があれば有給休暇を取得させる
・小学校就学前の子どもが感染したときは「子の看護休暇」の利用を推奨する など
まとめ
新型コロナの感染症法の類型が「5類」になり、ウィズコロナに向けた取り組みが段階的に進み始めました。2023年5月8日を境にさまざまな対応が変更されています。
これからも、新型コロナは流行する可能性があります。
従業員から相談を受けることも考えられますので、記事を参考にしてください。
従業員の急な欠勤は企業にとって大きなリスクですが、まずは企業内の感染予防や感染者が発生したとき、業務への支障が出ないような事前の対策をご検討ください。
次回の記事では、新型コロナの感染拡大で臨時的な対応がされていた傷病手当金や失業保険、労災保険など、5月8日以降の労務管理上で企業が知っておくべき内容をお伝えします。
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