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向井了一社会保険労務士事務所

職場における熱中症対策


熱中症とは、高温多湿な環境に身体が慣れずに体内の水分や塩分のバランスが崩れ、体内の調整機能が破綻し発症する症状の総称です。一般的な症状に、めまい、吐き気、意識障害などがあります。 熱中症リスクは、すべての従業員にあります。企業には、従業員が安全で健康に働くために必要な配慮を行う義務がありますから、予防を含め正しい知識を持つことが重要です。

職場における熱中症死傷病者数 職場における熱中症は、記録的猛暑となった2018年には死傷者数1,178人と過去最高を記録しました。第13次労働災害防止計画では、2018年から2022年までの5年間で死亡者数を5%以上減少させる目標が設定されました。その後も、WBGT測定器の普及、熱中症予防対策の理解や対策を深めるための講習や情報提供を行い、労働者の健康確保対策を促進しています。

(出典)厚生労働省サイト『STOP!熱中症クールワークキャンペーン(職場における熱中症予防対策)』 熱中症の労災認定 法令等では、暑熱な場所における業務による熱中症は業務に起因する疾病のひとつで、労災となる可能性があります。熱中症の労災認定は、作業環境、作業内容、労働時間、本人の身体の状況などを総合的に勘案し、業務上疾病として補償対象となるかどうかを管轄の労働基準監督署が確認調査し判断します。 職場で熱中症が発生した場合は、労災保険を申請します。 その後、労働基準監督署に認められると従業員は給付を受けることができます。 申請から給付までの流れは以下のとおりです。 1 職場での熱中症発生 業務中に熱中症の症状が発生したときは、本人もしくは現場にいた従業員から以下の状況を確認します。  ①症状の確認  ②病院への搬送の必要性  ③従業員への家族へ連絡の必要性  ④熱中症が起きた状況 2 医療機関の受診 労災保険により治療費が支払われます。 そのため医療機関に対し、熱中症が発症した本人もしくは付き添っている従業員(または家族)から業務中の熱中症であることを伝えてもらう必要があります。 すべての医療機関が労災保険に対応しているわけではありません。労災保険対応の医療機関なのかを確認し、治療費に関する労災保険の書類を作成します。 労災保険に対応している医療機関かどうかで、書類の様式が異なります。 3 休業中の補償に関する労災保険の書類を作成し、労働基準監督署へ提出する 業務中の熱中症で休業が必要なときは、休業4日目から休業補償が支給されます。 休業中の補償に関する労災保険の書類時には、直近3か月の賃金台帳やタイムカード等の添付が必要です。また、休業3日目までは、企業が平均賃金の60%以上の休業補償を支払わなければなりません。 4 業務中に労災が発生したことを労働基準監督署へ報告する 業務中の労災が発生したら、労働基準監督署へ報告をする必要があります。 労災による休業が4日以上と4日未満のときで、報告書の様式と報告するタイミングが異なります。 5 提出した労災申請の労働基準監督署の審査結果を待つ 労働基準監督署は、保険給付の決定のため申請書類の審査を行います。 審査期間は申請内容によって異なりますが、2か月から6か月程度です。 6 労災保険の支給・不支給の決定が行われ、給付が行われる 労災保険の認定・不認定の決定が行われたあと、従業員本人に対し、支給(不支給)決定通知が送付されます。認定されると給付が行われます。 労災の認定要件のひとつに、本人の身体の状況があります。熱中症は、体調不良や不摂生、睡眠不足などがあると発症リスクが高まりますが、発症した原因が本人の体調等による部分が大きいときは労災認定されないケースもあります。 熱中症の主な症状と重症度 熱中症の重症度は、Ⅰ度からⅢ度に分かれています。 Ⅰ度は軽度の症状とされており、現場での適切な対応で重症化を防ぎ、症状改善ができる段階です。症状が改善しないⅡ度以降は医療機関への搬送が必要となるため、熱中症の疑いがあるときは症状の観察が大切です。細かな症状や処置については以下の通りです。

(出典)厚生労働省『職場における熱中症予防対策マニュアル』P3 事前にできる熱中症予防対策 昨年1年間の、職場における熱中症での死亡を含む休業4日以上の死傷者は919人、うち死亡者は19人となっています。 以下、職場での熱中症予防策をまとめました。 1 作業時間の短縮や休憩所の設置 簡易な屋根の設置、通風または冷房設備やミストシャワーなどの設置により、WBGT値を下げる方法を検討し、作業場所の近くに冷房を備えた休憩場所や日陰などの涼しい休憩場所を確保してください。 WBGT値が高いときは、単独作業を控え、WBGT値に応じた作業の中止や、こまめな休憩などの工夫を行ってください。 【WBGT値(暑さ指数)とは】 熱中症予防を目的として、1954年にアメリカで提案された指標です。 WBGT値(暑さ指数)は人体と外気との熱のやりとりに着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい ①湿度、 ②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、 ③気温の3つを取り入れています。 WBGT値(暑さ指数)が、28℃を超えるときは熱中症にかかりやすくなります。 参考|環境省『熱中症予防情報サイト』 2 通気性の良い服装の着用 通気性のよい作業着を準備し、冷却機能をもつ服の着用の検討を行ってください。 3 汗で不足しがちな塩分と水分の補給 休憩場所に飲料水や塩飴などを用意します。こまめな休憩とともに、喉が渇いていなくても水分と塩分を定期的に補給するように促してください。 4 熱への順化 暑さに慣れるまでの間は十分に休憩を取り、1週間程度かけて徐々に身体を慣らします。 特に、入職直後や夏季休暇明けの方は注意が必要です。 5 マスク着用の熱中症リスク周知 新型コロナウイルス感染予防としてマスク着用が定着していますが、マスクを着けると皮膚からの熱が逃げにくくなったり、気づかないうちに脱水になるなど、体温調整が難しくなります。 マスク着用は室内であっても熱中症リスクを高めます。人との距離を保ち、適宜マスクをはずしたり、こまめに水分補給するように社内周知をしてください。 参考|厚生労働省『屋外・屋内でのマスク着用について』 6 熱中症に関する健康状態自己チェックシートの利用 持病のある従業員は、熱中症リスクも高まります。定期健康診断や持病確認などを行い、必要に応じて産業医や主治医に対応を確認してください。朝礼時や作業前に健康状態を確認したり、厚生労働省の職場における健康状態チェックシートなども活用ください。 参考|厚生労働省『熱中症に関する健康状態自己チェックシート』 7 高年齢者従業員の体調管理 高年齢者の熱中症にも注意が必要です。高年齢者は、暑さや喉の渇きを感じにくく、体温を下げるための身体反応が弱くなっていることがあります。エアコンがなくても平気だった昔と比べ、昨今は異常な暑さです。高年齢者従業員の体調変化を観察し、体調確認や水分補給など積極的な声かけをしてください。 熱中症の応急処置 熱中症の放置は、死に直結する緊急事態だと認識してください。重症の場合は救急車を呼ぶことはもとより、現場ですぐに体を冷やし始めることが必要です。

(出典)環境省『熱中症環境保健マニュアル 2022』P26 まとめ 今年も各地で暑い日が続いています。 熱中症は身近な災害ですが、疾病の名称は聞いたことがあっても症状についての認知はまだまだ浸透していません。そのため、初期症状が出ていても「仕事を一旦止めて休む」ことを選択せず、無理をして仕事を続けて重度化するケースがあります。重度化すると死亡リスクが高まり、そうでなくても重い後遺症が残る可能性があります。 企業側の対策はもちろん、従業員の意識向上も必要です。本人だけではなく、周りの従業員で早めな対応ができるよう、労使一体となっての予防対策をおすすめします。

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